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【人面町四丁目】 北野勇作

北野勇作『人面町四丁目』(角川書店)

カバー写真:在本彌生


最初に断わっておきますが、これ、出ているところは角川ホラー文庫、となっていますが、内容はホラーではありません。
描写に若干のグロテスクさは否めませんが、そんなことはちょっとした風味付け程度で、見る人によってはこの作品はホラーではなく、ファンタジーティストの純文学、とも言えるのではないでしょうか。
特に、著者の得意とする奇妙な擬音の数々は、文藝賞でもとったの?と聞きたくなるような、独特のリズムと味わいを持ったものです。
既存の擬音にあきあきした人は、北野勇作の音や会話文の描写(といっても、主人公は標準語なので大丈夫)だけでも、衝撃を受けるのではないでしょうか。
(余談ですが、川上弘美さんの擬音も、平仮名がしっくりあっている感じで、良いですよねー。)

この作品は、一人の男が大震災に遭い、家を失くし途方に暮れているところを、怪しげな女に「いっしょに来る?」と誘われて、そのまんま彼女と結婚して、不可解な街に住みつく、という話です。
出だしがいきなり二人の出会いから始まるわけではなく、内容は読みきりの連作短編集で、各話の土台になっているのは、怪しげな女(現・妻)と、主人公の日常生活です。
見方をすっごく変えれば、こんな形の漫画や恋愛小説あったな......と感じる人もいるかもですが、この不可解さ、不条理さがすごい。
ホラーというと、やたら忌々しかったり、グロテスクだったり、猟奇的だったりしますが、この本はどのどれにも属さない本です。
グロ、というほどグロではないし(人面魚さばいたり触手みたいのも出るけど)、猟奇的じゃないし(下半身人間で上半身が鮫の怪物に追っかけられたりするけど)、どう定義したらよいやら、難しいといいますか......あ、シュール、シュールっていうのかもしれない。こういう感覚。

主人公が滞在する街では、かつて「人面」と呼ばれるもの(兵器?)が造られていて、それのせいで「人面町四丁目」と呼ばれています。
人面魚をさばいたり、火星人が侵略を企てていると噂の遊園地に行ったり、ぐるぐるとすり鉢状の地形を下って行くと、一番底は裏返しの同じ街が繋がっていたりします。

「~します。」などと言いきってみましたが、何だかまったく説明になっていない気がする。

北野勇作は、ハヤカワSFからも何作か著作を発表していますが、「どーなつ」などにもみられるような、自分がかつて「自分だったもの」のクローンでは無いか?と自己の存在について不安を覚えるところや、要所に見られる、草原の遮断機越しに夕焼けを見るような懐かしさが、色濃くでた作品であるように思います。
彼の魅力は、ホラーをホラーとして、怖がらせる・驚かせる方向にのみ突出するのではなく、郷愁や違和感・不穏な気配などを、大きな風呂敷のように包みこんで、読者に手渡してくれるところにあります。
岩井志麻子の「岡山女」や「ぼっけえ、きょうてえ」なんかが好きな方にも、受けるかもしれません(北野勇作には、彼女のような饐えた色気はありませんが)
彼の、どこか淡々とした視点が、良い方向で際立った作品と言えるでしょう。

個人的には、彼の作品は「どーなつ」「恐怖記録機(フライトレコーダー)」「ハグルマ」「」北野勇作どうぶつ図鑑などを読んできたのですが、この作品が一番好きです。
夕焼けの土手で一人迷子になってしまったような、懐かしい不安が味わえる一冊です。

ちなみに、この作品で、「俺がお前でお前が俺で」の自分脳内迷子な状態が癖になってしまった方には、もっと混乱するであろう「どーなつ」をオススメします(※こちらはハヤカワ文庫 JA Jコレクションより刊行されています)
どこかユーモラスで、こちらが油断したところの、やわらかい部分をえぐり取られるような感覚を味わいたい方は、ぜひ。

※これも余談ですが、カバー写真が蜷川実花の作品だと勘違いしてました。
だって、似てないですか、ティストが。
ちなみに写真家さんのHPは、せっかちな私にはもどかしいものでした......
でも外国や、宇宙服の写真などもあるので、そういうのが好きな方にはオススメします。

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