【百頭女】 マックス・エルンスト
百頭女 (河出文庫) (文庫)
マックス エルンスト (著), Max Ernst (原著), 巌谷 国士 (翻訳)
唐突ですが、最近っていろんな本が出回ってますよね。
古本屋の店員をする前もそう思ってましたが、店員になってから、更に如実に感じるようになりましたよそこらへんは。
この現代、消費者の大部分を占めるであろう若者達の心を射止めるのは、何はともあれ物珍しさ!な風潮が、そのような奇抜な本をぽんぽん産出している原因なのでしょうね。
しかし、変わった装丁の本を眺めたり、手に取ったりして、「へーすごいな」と感心はしても、私達は果たしてそれに素直に感銘を受けたり、もしくは直接脳を絞られるような衝撃を受けることがあるといえるでしょうか。
勿論、かく言う私も、変わった装丁の本には目が無く、昔の鏡台のように左右開きになる本や、アコーディオンの如くだんびらに広がる細工本を目にしたとき、「わーぉ」と素直に手に取ってしまうジャンボリーな少女でありました。
しかし、この本の表紙を見たとき、一見何の変哲も無い本に見えて油断していると、じわじわと滲み出てくる違和感に堪え切れなくなり、ついつい鳥肌が立ったものです。
この本は、パッと見、特に変わった細工やアイデアが活用されているわけではない、普通の一冊の本です、しかも私が手に取ったのは文庫版。
絵画集や図録は、そのサイズが小さくなるにつれ、自ずと迫力も縮小してしまうものですが、この本は、いや作品達は手のひらサイズでも凄かったのです。
マックス・エルンストは、この「百頭女」とともに、「慈善週間」や「カルメル修道会に入りたかった少女の夢」といった、コラージュ作品集を刊行しています。
これらの作品は総じて、コラージュ・ロマンとされ、長年に渡って、私達を虜にしてきました。
ここで画像を紹介出来ないのが残念ですが、本当に、見れば見るほど疑惑ばかりが浮かんで、胸騒ぎがしてくる作品ばかりです。
かといって、作品がいたずらにグロテスクだったり、ホラーというわけはなく、印象的にはシュルレアリスム的な受け取り方をする方が多いでしょう(てーか、実際シュール過ぎて意味解らん!!ってなったりする)
この作品は、本来は画家であるエルンストが、19世紀の書籍から切り取ってきたパーツを組み合わせて、新たな世界観を構築する、といったものです。
見開きのページに一枚載っている絵には、それぞれ一文が添えられてあります(みつを的?絵本的?)
しかし、その一文がそれぞれ一筋縄にはいかない。
「風景の無意識は完璧になる。」
「直径の大きな叫び声が、果物と肉片を棺桶のなかで窒息させる。」
「そして画像たちは地面まで降りてくるだろう。」
「両目のない目、百頭女は秘密を守る」
「犯罪か奇跡か――一人の完璧な男」
「無原罪の宿り」
......ああ!何この意味深さ!!頭痛してくる!
と、そこで本を投げ出してはいけませんよ。
一見意味不明なこのフレーズも、次々に読み進めていくうちに、段々とすだまのイメージとして繋がってくるのです、ほんとだって、うそじゃないって。
時代背景が時代背景なので、この作品には、キリスト教に対する風刺も含まれているようです。
特に最初に出てくる「犯罪か奇跡か~」の一枚は、キリストの誕生を示していることは明確です、しかし、それ以後の数枚は、マリアの受胎が幾度も失敗する様子が描かれていたりします。
この時点で、エルンストが、キリスト教に対して、別の側面からスポットを当てようとしたことが解ります。
エルンストは、キリスト教を盲目的に支配的な観点ではなく、描こうとしたのではないでしょうか。
また、特定のキャラクターとして、鳥類の王ロプロプ・老いた無力な男「永遠の父」・困惑と騒乱の象徴である百頭女・幽霊たち等が出てきます。
キリストが降り立った世界は、百頭女によって騒乱へと巻き込まれ、それをロプロプが破壊し、文字通り「再生と破壊」の繰り返しを、この一冊で味わうことが出来るというわけです。
この破壊と再生の輪から、インドの三大神「ヴィシュヌ」「ブラフマン」「シヴァ」を彷彿としたりしますね(本書では、シヴァ的な役割を担うのはロプロプか?)。
また、この本の原題は「La Femme 100 Tetes」 といい、サンテート(100 tetes)はサンテート(sans tetes:無頭)をあらわすと言いますから、この部分も実にひねりが効いているもんです。
日本で無数のことを八百万、と言い換えるのとも、若干似ているような気もします。
......何だか、難しいことばっか書いた気がします。
すんません。
でもそう考えると面白いと思いませんか?
一見意味不明なコラージュ奇書に、複雑な風刺が含まれていると考えてみたら、どうでしょうか?
この本が本当に目新しさと奇抜さだけで売っているとしたら、これまで生き残ることはできないでしょう。
この本から、私達は既存の物を恐れることなく、新しいものをつくり出すことを、再度学ぶべきなのかもしれません。
......言い忘れました!!
文庫でも堪能できますが、お金に余裕がある人は、単行本を購入されることをオススメします!!
細部の出来が違うと、メッセージ性もまた違ってくると、私は思うからです。
ま、肝心の私めはと申しますと、立ち読みでしか単行本を読んだことがないんですがね......。
お金持ちになったら、即行で入手します、ヨヨヨ。
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