【ニシノユキヒコの恋と冒険】 川上弘美
ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫) (文庫)
川上 弘美 (著)
内容(「BOOK」データベースより)
ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ...。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。
唐突な質問をします。
貴女、どうしようも無い男、ええ、「まるでダメな男」と書いて「まダ男」、好きですか?
ここで言う「まダ男」とは、無職でメタボで牛乳瓶の底みたいな眼鏡かけてて口癖や語尾に「おぅふww」や「でゅくしwww」が付く長袖カットソーの上にビッロビロにくたびれたネルシャツを着ている実家住まい無職な若さ磨り減らしてるだけの男のことではありません。
この場で用いる「まダ男」は、女の子の扱いに長けていて、容姿も中々、職にもしっかり就いていて、底抜けに優しくずるい男のことです。
それのどこが「まダ男」やねん、とのツッコミ、解ります、まぁまぁ抑えて。
一見男として何も問題なさそうな彼、「ニシノユキヒコ」は、女性を心底愛せないし、愛されない人間なのです。
って、一文で書いてしまうとただの可哀そうな嫌な男ですね、これじゃ。
でも、そうじゃないんですよ。
彼は女の子と交際し、様々な女性をふわふわと渡り歩く中で、どの女性にも記憶は残しても傷跡は残しません。
10人の女性の視点から、過去を振り返る形式で語られるニシノユキヒコの像は、それぞれ違いますが、どれも悲しいほど優しく、憎らしくなるほど、無害なのです。
彼は女の子の求めることを察知して、それを行う能力に長けていますが、女の子と本気で喧嘩をしたりはしません(悲しくて泣いたりはするようですが)
いつも女の子にふわふわと漂泊するように辿り着いて関係を持つものの、最後には女の子の方から離れられてしまうのです。
女性達の言い分も解るんですよ、これが。
何の申し分も無いニシノユキヒコに、ふと感じる不安、切なさ......優しさと肉体的な繋がりだけでは、どうしようもなく埋められないところ、というのが恋愛にはあるんですね。
まさに、この「優しくて容姿端麗な男性に対して感じる不安」っていうものを、瑞々しく、いやらしくなく、むしろニシノユキヒコ!アンタが好きだ!!と思わせてくれる川上弘美は良いですね(と、完全に個人的な観念からの意見からです、すんません)
内容は、ニシノユキヒコが交際してきた10人の女性が、それぞれ彼との思い出を辿るオムニバス......もしかしたらアンソロジー的な要素が強い小説です。
各話の長さは通勤中などに読めてしまうくらいの手頃なものですから、「最近、恋、してないわー」って方には、脳内トリップにちょうど良い書物ではないでしょうか。
ですが、いきなり第一話目でニシノユキヒコ死んでますからね!!
私、凄いショックでしたよ、本当。
最初、まだ彼に対して予備知識全く無い状態でいきなり死なれて、それから先の話で彼が少年~壮年に至るまでの話が描かれていくわけですが、まぁ、どうせ死ぬと解っていても、どんどん好きになってしまうのですよ、このどうしようもなく優しくて孤独な「まダ男」を。
二股かけたり、社内でいきなり上司の女性に手を出したり、結構男女関係は華やか(?)そうに見える彼ですが、読めば読むほど、こう、植物的な儚さすら感じるというか......。
ああ、これが所謂「草食性男子」か。
何だか納得。
そして、何故か友人に一人は、ニシノユキヒコのような体質の男子もいたりしますからね。
そういう身近な人物と重ねて読んでみるのも面白いです。
この本を読み、少しでも共感するところが有る人なら、こんな男に引っ掛かったらしんどいことが解っていても、ついつい街中で自分の中のニシノユキヒコを探してしまうこと請け合いです。
ですが、まぁ何というか報われない可哀そうな男の話でもあるので、「男はやっぱり只野係長とか、ゴルゴ13みたいな強引で野獣な人じゃなきゃ嫌!!」と言うアマゾネスな方には物足りなく軽い印象の一冊になるかもしれません。
くれぐれも、自分の好みを見誤らないようによく考えてから、手にとって見てください。
ハマる人はどっぷりハマります。
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